飲食店や小売店向けにクラウドPOSレジを提供するスマレジ(4431)が、6月11日(金)に2021年4月期の通期決算発表を行った。3度目の緊急事態宣言により営業停止を余儀なくされる飲食店が多い中、同社が今後どのようなビジョンを描いているのか、3月に発表された「長期ビジョン・中期経営計画」とともに内容を探っていく。
21年4月期の売上高は33.2億円(前年比+2.3%)、営業利益は8.5億円(前年比+12.6%)と8期連続で増収増益を達成した。緊急事態宣言の影響を受けながらも、通期計画に対して達成率が102.2%となった。営業利益率は過去最高の25.4%となり、先行き不透明感による販管費削減による効果もあるが、税率改正特需があった前期よりも増益となったのには驚きだ。
緊急事態宣言の発令によりサービス業へ与えるダメージは大きいが、同社のIR資料を確認すると、小売・飲食・その他サービス業全てにおいて、その影響は徐々に緩和されつつあることがわかる。日本でもワクチン接種が今後加速していくことから、最悪期はすでに脱し、今後は再び成長フェーズへ向かうと思われる。
同社はタブレットをはじめとするハード機器を取り扱っているため、売上全体に占めるサブスクリプション割合は他のSaaS企業よりも高くはない。21年4月期時点でのサブスクリプション比率は55.7%となっている。
しかし、ARRは20.7億円(前年比+30.3%)と順調に成長を続けている。POSレジというスイッチングコストが高いサービスを提供しているため、コロナのような出来事が起きたとしても解約が発生しにくいのだろう。事実、解約率(Revenue Churn)は0.66%と非常に低い水準にある。
また、新規顧客獲得にも注力している。初めての緊急事態宣言時(20年4月)、商談におけるオンライン比率は13%だったが、現時点では31%にまで高まっている。ショールーム(オフライン)ともうまく組み合わせながら、顧客の開拓を進めている。緊急事態宣言下でもアフターコロナの開業準備やリプレイス需要が継続しているため、サブスクリプション売上が増加している。
同社の中期経営計画では、24年4月期にARR50億円を達成するという目標を掲げている。そのために、マーケティングへの投資、アプリマーケットの活性化、ペイメントサービスの見直し、そして、スマレジ・タイムカードのプロダクト強化という4大施策を実施する予定だ。
勤怠管理システムである「スマレジ・タイムカード」は同社のHR事業として既存事業から独立した。現在のARRは2.47億円(前年比+16.1%)、ARPAは5,460円(前年比-7%)、登録事業所数は10万店舗(前年比+18%)となっており、今後の成長に期待したい。
「スマレジ・アプリマーケット」もユニークな取り組みだ。これはスマレジユーザーが、各自の課題や目的に合わせて必要なアプリを追加することができるマーケットプレイスとなっている。アプリコンテストや開発者向けのイベントを開催したことで、開発パートナーが前四半期比+30.6%と大幅に増加。アプリが増加すると、ユーザーの利便性が向上するとともに、スマレジの競争優位性が高まることになる。
コロナ禍においても増収となったことに加え、ワクチン接種も進んでいることから、緩やかに成長フェーズへ戻ると同社では予想している。取り扱っているハードウェアに関して、サプライヤーの供給体制が追いつかない可能性があるものの、22年4月期の売上予想は40億円(前年比+20.4%)となっている。TVCMをはじめとしたマーケティング施策を積極的に展開するため、営業利益は5.9億円(前年比-30%)の予想となっている。
決算発表を受けて、同社の株価は9.7%上昇し、マーケットからはポジティブに受け止められたようだ。コロナショックにより一時は暴落したものの、アフターコロナ銘柄として順調に株価が伸びてきていることがわかる。株主構成を確認すると、前期は機関投資家比率が14.6%だったのに対し、今期は23.9%と9.3pt上昇している。どのようにして中期経営計画を達成するのか、これからも目が離せないSaaS企業である。
Written by kakeru miyoshi(@saas_penguin)
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