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SaaSはまず、ディフェンスから - VCが事業計画をみるポイント -

Handbook10.4.20212 min read

VCは、事業計画の何をどのように見ているのか。

そして、その蓋然性はどのように確かめているのだろうか。

そう思う起業家も少なくないはずです。とりわけSaaSというビジネスは専門的な指標が多く、その管理に困っている方も多いように思えます。

今回は、主にB2B SaaSへ投資するVC「DNX Ventures」の Managing Partner / Head of Japan 倉林陽氏に、SaaSスタートアップの事業計画をみるポイントを伺いました。

<倉林陽 氏>
DNX Ventures Managing Partner / Head of Japan

富士通株式会社及び三井物産株式会社にて日米でのベンチャーキャピタル業務を担当後、Globespan Capital Partners及びSalesforce Venturesの日本代表を歴任。2015年よりDNX Ventures (旧Draper Nexus Ventures)にManaging Directorとして参画、2020年よりManaging Partner & Head of Japanに就任。著書「コーポレートベンチャーキャピタルの実務」(中央経済社)


三好:倉林さん、本日はよろしくお願いします!早速本題ですが、新規投資をする際、事業計画において最も重視するポイントはどこですか?

倉林氏:ARRの成長率です。兎にも角にもこれが大切ですね。

ARRが100億円まで最速で到達するような計画を立てているかどうか、それを達成するためのアクションが明確になっているかどうかを見ています。

もちろん、ARRを構成する要素として、ChurnやNRR、ARPAなどもしっかりとチェックしています。

エンタープライズ向けであればSales Cycleは長いですが、その分ARPAが高く、Churnは低くなるはず。そのためにCSへしっかり投資できているかどうか、つまり、穴の空いたバケツになっていないかを確認しますね。

SMB向けであれば、Growth Efficiency が高くなることを想定するのは難しい。CACが高い想定で成長が描けているかどうかを見ていますが、そもそもTAMが大きいかも判断材料の1つです。


三好:ARR成長率が最も重要とのことですが、どのくらいを目安にすべきでしょうか?

倉林氏:やはり「T2D3」的な成長が理想です。後はScale Venture PartnersのRory O’Driscollが言っている、「Mendoza line」のような目線も大事だと思います。ARR100億時点で求められる最低限の成長率コンセンサスがある訳なので、そこへ到達するような成長率をアーリーステージで達成できているかどうか。

逆に、T2D3よりアグレッシブな数値を出している起業家も見かけますが、これは業界水準を理解していないのか、本当にそこまで高い成長を見込める仕掛けがあるのか、質問して確認します。多くの場合、前者であることが多いですが・・・。


三好:T2D3を実現できるかどうか、見極めるポイントはありますか?

倉林氏:事業計画のGrowth Efficiencyを分析すると、本当に達成できるのかどうか、わかる部分があります。

例えば、ARR XX億円を達成するためには、Growth Efficiencyの業界ベンチマークと照らし合わせれば、このくらいの人件費やマーケティングコストが必要であるということがわかります。

しかし、お伝えした通り、Efficiencyが高い計画を作っている場合も多いので、現実的なCACを想定した資金調達計画になっておらず、起業家が思っている以上に増資が必要な場合があります。

それに合意できたとしても、次は本当にそのくらいお金使えますか?採用できますか?という話になる。確かにこんなに採用できないですよね、となり、現実的な計画に落ち着いていくと思います。


三好:なるほど。他にはどのようなコメントをすることが多いですか?

倉林氏:最近は優秀な起業家がとても多く、既に理解されていることも多いですが、それでも顧客とのエンゲージメントが大切だということは繰り返し伝えています。

収益が立っていても、それは本当の売上なのかどうか。営業に強い起業家が無理矢理受注していないかなどは、大事なポイントです。資金調達時の魅力を増すために、無理矢理ARRを積むことは、起業家にとっても不幸になる可能性があります。

特に、セールスが強い会社は頼もしい反面、リスクもあるという感覚を持っています。新規顧客の獲得はできているが、実はそのプロダクトが経済価値をそこまで生み出せていないなど。まだ更新を迎えていないSaaSの場合は、しっかりと顧客のヘルススコアを分析し、North Star Metrics の明確化にトライすることが必要だと思います。

また、プライシングについて十分に思いを馳せていないケースが多いですね。ここを突き詰めることで、顧客のセグメンテーションも明確になってきます。投資検討する際は、このあたりを確認させていただいています。


三好:事業計画を見る際、これが不足しているなと感じるメトリクスなどはありますか?

倉林氏:スタートアップのステージにもよりますが、NRRなどですかね。

最近はSaaSメトリクスに関する記事が乱立しているので、起業家が混乱しているのも仕方ありませんが、メトリクスをきちんと理解されていない方もいらっしゃいます。

具体的な話をすると「現在、NRRってどのくらいですか?」と聞くと、「当社はネガティブチャーンです!」とおっしゃる起業家の方も半分くらいいらっしゃいます(笑)。

大事な指標については、きちんと間違いを正してお伝えしています。


三好:では、事業計画において、ありがちな失敗パターンがあれば教えてください。

倉林氏:一概には言えませんが、Churn Rateが高いのに、なぜかセールス&マーケにアグレッシブに投資しているケースがあります。そのような計画をみた場合は、自分の中で危険信号が点灯しますね。

とりあえずトップラインを伸ばそうとする姿勢は危険で、SaaSの場合、まずはディフェンスを固める、つまりプロダクトとCSへ投資することが重要だと思っています。

SaaSにとって、Churnは最優先で対処すべき事項なので、まずはしっかりと守りを固め、PMFしてから攻めに出るのが正攻法です。


三好:先ほどPMFという言葉が出ましたが、倉林さんにとって、PMFの定義とはどのようなことでしょうか?

倉林氏:やはり顧客とのエンゲージメントを確認できた時ですね。最初から顧客をガッツリ取りに行くよりも、あえてユーザー数を絞って、丁寧にフィードバックをもらった方が、本当に世の中に必要とされているのかがわかります。弊社の投資先でも、NPSやSean Ellis Testを初期段階から定期的に行って確認している企業もいます。

一方、VCはプロダクトが無い時にPMFしそうかどうかを判断しなければならない時もあります。これは、徹底した市場リサーチと顧客インタビューで乗り越えるしか無いと思っています。

弊社投資先の話になりますが、カケハシは当時、プロダクトがまだない状態でした。しかし、これはPMFすると思ったんですよね。なぜかというと、カケハシの顧客と電話でやりとりをしていた際、電話がなかなか切れない(笑)。つまり、潜在顧客が完全に熱中してたんです。

彼らがカケハシのプロダクトコンセプト、withカケハシの世界に物凄く共感していることがよく分かりました。プロダクトがなくても、イメージやコンセプトが芯を捉えたものであると感じられれば、PMFを達成する可能性は高いと思っています。

すでにリリースされているプロダクトのPMFを見直すこともあります。Churn Rateが高かったり、CVRが低いプロダクトがあれば、顧客との対話を通じて顧客セグメント、プライシング、機能の見直しをすることで改善できる思います。

SaaSは本当にサイエンスだと思います。このようにあらゆるデータを取って、検証し、改善していくことが、SaaSの経営においては非常に重要なことです。


三好:新規投資を検討する際、事業計画はどのくらいのスパンまでみることが多いですか?

倉林氏:正直、3〜5年後の計画は細かく見ていません。3年後なんて何が起きているのか誰にもわからないので。パンデミックが起きるなんて、誰にも予測できませんでしたよね。ただし、お伝えした通り、大きなARRを最速で作るために、適切な投資ができるCEOかどうかは見ています。

弊社はシリーズAで投資することが多いので、シリーズBまでにスピード感を持ってARRを伸ばせる蓋然性があるかどうかは見ますね。

もちろん、バーンレートやランウェイについてもチェックしています。無駄にキャッシュを使うのは危ないので、何にどのくらい使うのか、起業家とすり合わせを行っています。

(インタビューに答える倉林氏)

三好:では、投資後のお話を聞かせてください。既存投資先の事業計画はどのタイミングでチェックすることが多いですか?

倉林氏:アーリーステージの場合、次回ラウンドに向かう際に見直します。1年半から2年の間に次のラウンドを実施することが多いでしょうから、そのタイミングですね。

スタートアップですから、事業計画は想定通りになっていないケースの方が多いです。Churnは低かったけど、成長率は未達だったみたいな。なので、この間に分かった市場やプロダクトの特性を反映して軌道修正を行い、次のラウンドに向かうケースが多いです。


三好:計画は想定通りにならないケースの方が多いとのことですが、その場合、どのようなアドバイスをすることが多いですか?

倉林氏:まずはNew ACVがとれないことを気にするよりも、数は少なくてもエンゲージメントの高い顧客を作ることをアドバイスします。そもそも、未達の企業はChurnの予測が甘い傾向にあります。なので、しつこいようですが、まずは穴(Churn)を塞ぐことに注力するよう助言しています。

課題が攻めであることがわかれば、営業が弱い、仕組み化ができていないことが可能性としてあり得ると思います。ここは時に外部から専門家を採用しつつ、営業プロセスをサイエンスしていきます。

また、日本にはプライシングに手を付けられていないスタートアップが多い印象です。価格設定が安易で、そもそも安すぎるケースなど。プロダクトが成長しているのにずっと同じ価格で提供しているような事例も多いので、テコ入れが必要な場合も多いです。


三好:計画とどのくらい乖離していたら、これはまずいなと思いますか?

倉林氏:具体的な数字はイメージしたことはないです。

ラウンド毎に成長を期待されるSaaSにおいて、限られたランウェイの中で、次回ラウンドで新規投資家が認める成長を達成する必要があります。今の成長率だと投資されないなと思えば、キャッシュがある内に立て直すなり、既存投資家としてブリッジするなり、手当てをすることが必要だと思います。

計画と乖離があるスタートアップは、そもそも、仮説やプロダクトに問題がある可能性があります。そのため、既存顧客の利用状況、解約顧客のChurn理由などを分析して、躓いたところを起業家と一緒に修正していきます。早めにネガティブな兆候を見つけたいので、こまめなコミュニケーションを心がけています。

このように、オフェンスよりもディフェンス側のテコ入れを行うケースが多いですね。


三好:逆に目標達成している企業について、特徴などはありますか?

倉林氏:達成する会社はChurn Rateが低く、NRRが高い傾向にあるかと思います。

まずは、PMFを実現して、NRRが高い状態をキープできれば、CVRが多少ずれても問題ないケースが多いですね。


三好:最後に、起業家の方へ向けてメッセージをお願いします!

倉林氏:最近は日本でもスタートアップに対する理解も深まり、起業する方が増えています。

加えて、B2B SaaSというポテンシャルのある領域で起業する方も増えており、今後、ますます市場の拡大が見込めることから、とてもワクワクしています。

その一方、Founder Market Fit はとても重要だと思います。この課題を解決するのは果たして自分なのか、本当に顧客の成功を実現したいのか自分に問いかけながら、社会性のあるスタートアップを経営していただきたいと思います。

ぜひ、自分のテーマにあった起業をして、日本のSaaSマーケットを一緒に盛り上げていきましょう!


三好:貴重なお話をありがとうございました!

倉林氏:こちらこそありがとうございました。

Interview & Text by kakeru miyoshi(@saas_penguin

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