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「T2D3」
SaaS事業を経営している起業家なら、一度は聞いたことがあるだろう。
ARRを毎年、Triple(3倍),Triple(3倍),Double(2倍),Double(2倍),Double(2倍)に成長させていくモデルで、その頭文字をとって「T2D3」と名付けられた。クラウド領域で著名なVC「Battery Ventures」のNeeraj Agrawal氏が提唱したものだ。
5年間でARRを72倍にすることは決して簡単なことではない。しかし、ユニコーン企業になるまでの指針として、多くのSaaS企業がこの成長カーブを目指し、事業計画を作成している。
©︎Battery Ventures
これまでに、SalesforceやMarketo、ServiceNowなど、著名なSaaS企業がT2D3に沿った成長を実現している。そして、ユニコーンになっている。
T2D3を実現し、ユニコーン企業になるためには、大きく7つのフェーズがあると言われている。
兎にも角にも、まずはPMFである。顧客の課題を見つけ、優先順位を付けながらプロダクトの機能開発や調整を行う必要がある。
多くの起業家は「どうしたらPMFしたと言えるのか」と疑問に思っているかもしれないが、残念ながら明確な答えがないのが現状だ。
一例として、顧客へ課題だと感じていることをヒアリングし、全ての回答に一貫性があれば、PMFを確立したと言えるかもしれない(ただ、顧客の中でトップクラスの課題感である必要がある)。
あるいは、まだ顧客がいない場合は、競合他社のレビューを見ることも有用である。同じようなことについて何度も言及されていれば、それが課題がであることがわかるためだ。
すでにプロダクトが出来上がっていれば、顧客が実際にベネフィットを享受できているか確認することができる。プロダクトの利用状況をデータ分析したり、顧客へ直接ヒアリングすることで、顧客に対して価値を提供できているか確かめよう。
このフェーズでは、主に創業者が新規顧客の獲得を実施する。
適切な初期ユーザーを獲得することが何よりも重要であり、完璧なセールスピッチ、ターゲティング、ファネル管理が求められる。
通常、このフェーズにいくまでには、サービスインしてから1〜2年程度かかることが多い。
翌年にARRを3倍にするためには、Neeraj Agrawal氏いわく、2つの方法がある。
1つは、創業者らが全ての取引をクロージングするという戦略だ。この戦略だとCVRは高いが、スケールしない。
もう1つは「セールス・マシン」と呼ばれる戦略で、前述したものより難しい。しかし、こちらの方が望ましいと言う。
これは最適なセールスリーダー、そして、5〜10名のセールマンを採用し、次のフェーズへ向けて準備するという戦略だ。ここから少しずつ権限委譲を行っていくことでスケーラブルな組織にしていく。
このフェーズでは、契約更新とリファラルが収益の向上へ寄与する。おそらく、10〜20名のセールスマンが収益拡大を牽引しているだろう。
解約が発生している場合、そもそもターゲットユーザーでなかったのか、プロダクト(もしくはCS)に問題があったのかヒアリングしてみよう。
このタイミングで、VP of Salesの下へセールスマネジャーを配置しても良いだろう。
創業者にとって、セールスマネジャーを採用することで、実際にプロダクトを販売している営業マンとの距離が生まれてしまうため、躊躇してしまうかもしれない。しかし、権限委譲を行うことによって、創業者は新しいマネジャーの採用やビッグクライアントの獲得に時間を費やすことができる。
創業者がピッチやクロージングに関与しなくても取引が成立するようになってくると、いよいよ大規模にスケールする瞬間に突入していくことになる。
Neeraj Agrawal氏いわく、多くのSaaS企業にとって、セールスマネジャーをうまく追加することは最も困難なマイルストーンの1つだという。
このフェーズでは、20〜30名のセールスマンと3〜5名のセールスマネジャーで構成されるチームを作るのが理想だ。
Neeraj Agrawal氏は、US発のSaaSでグローバルに進出する場合、まずはEMEA、特にイギリス、フランス、ドイツに集中することが良いと言う。
グローバル展開をする際、多くの企業は一度に複数の地域に進出するという過ちを犯すことが多い。しかし、まずは広範囲ではなく、特定地域を深く掘り下げることが重要である。
イギリスでは3〜5名、他国では1〜2名のセールスマンを配置すると良いだろう。
そうすることで、顧客のリファレンスを構築することができ、成功を保証してくれる各国のリーダーを育成することができる。
このフェーズでは、オペレーションにおける課題が山積している。
営業の中で誰を昇進させるべきか、もしくは外部から採用してくるか。グローバル担当のCROを採用するか、EMEAは本社のリーダーに報告させるべきかなど、決定すべきことがたくさん存在する。
また、ここで多くの企業が取り組むのは、リセラーやパートナーチャネルを構築することである。パートナーを活用したセールスは非常に難しい問題だ。
Neeraj Agrawal氏いわく、SaaS企業はARR$50Mを達成する前にパートナーチャネルを立ち上げるのは時期尚早だという。理由はシンプルで、パートナーが自社プロダクトを売るインセンティブが働かないためだ。
また、何十社ものパートナーよりも、1、2社のパートナーから収益を獲得する、つまり、量よりも質を重視した方が良いと述べている。パートナーとの関係性を現場で維持することは、1社でもとても難しいからだ。
ここまでくると、ユニコーン企業になるという選択肢も、IPOするという可能性も手にすることができる。最近はすぐにIPOせず、デカコーン(評価額$10B以上)になってから上場する企業も増えている。
また、このフェーズから、SaaSで重要と言われる「40%ルール(売上成長率+FCFマージンが40%を超えること)」を新たなベンチマークにおいても良いだろう。
評価額が$1B(1000億円)になったら、次のマイルストーンはARRを$1Bにすることだ。
このように「T2D3」に沿った成長曲線で成功したSaaS企業は多数存在している。そして、IPO後も企業価値を高めていることも事実だ。
しかし、「T2D3」はあくまで目安であって、成功を保証するものではないことを覚えておこう。加えて、高い評価額を得るための唯一の手段でないことも念頭に置いておこう。
主に国内で事業展開をする日本のスタートアップにとって、5年間でARRを2億円から144億円にする「T2D3」を実現することは難しいかもしれない。しかし、日本にもSaaSを経営する上で重要な情報が徐々に浸透しつつある。そして、SmartHR社(ARR45億円,YoY+100%)のように、急成長中のSaaSスタートアップが現れてきていることは、日本のSaaS市場にとって非常に明るいニュースだ。
Written by kakeru miyoshi(@saas_penguin)
参考記事:Helping Entrepreneurs “Triple, Triple, Double, Double, Double” to a Billion-Dollar Company
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