最近のシリーズA調達は厳しくなっています。特に重視されているのが「Unit Economics」です。ただ成長しているだけでは通用しない時代になりました。今回は、実際の調達で使えるUnit Economicsの考え方から、投資家へのアピール方法まで解説したいと思います。
Unit Economicsとは「顧客一人当たりでちゃんと儲かっているのか」を示す指標です。顧客を獲得するのにいくらかかって(CAC)、その顧客から最終的にいくら売上が得られるのか(LTV)。この関係性を数字で明確にすることで、事業の健全性を判断します。
従来よく使われていたARRやMRRは「今月・今年どれだけ売れたか」を示す指標ですが、Unit Economicsは「成長するために投資したお金が、いつ・どのくらい返ってくるのか」まで見えます。ここが大きな違いです。
投資家の立場で考えると、スタートアップに投資するとき最も気になるのは「この会社にお金を入れたら、確実にリターンが見込めるか」という点です。
Unit Economicsが良好な企業は、追加で資金を投入すればするほど利益が積み上がっていく構造になっています。一方、Unit Economicsが悪い企業は、成長すればするほど赤字が膨らんでしまいます。これでは投資判断が困難になってしまいます。
計算式:営業・マーケティング費用 ÷ 新規獲得顧客数
業界別ベンチマーク:
計算時の注意点: 営業・マーケティング費用には人件費、広告費、ツール費用を含めます。ここで注意したいのがタイムラグです。マーケティング施策の効果が出るまで3-6か月かかることが多いので、単純に「今月の費用÷今月の獲得数」で計算すると実態とズレてしまいます。
基本計算式:ARPA × Gross Margin × (1 ÷ Churn Rate) シンプル版:月次ARPA ÷ 月次Churn Rate
LTVを計算するとき、盲点になりがちなのがGross Marginの設定です。「売上からサーバー代を引いただけ」という計算をよく見かけますが、実際にはサポート費用、決済手数料なども含めて計算する必要があります。SaaS企業なら大体70-90%程度になります。
この比率が、Unit Economicsの健全性を判断する最も重要な指標です。
目安値:
ただし、事業フェーズによっては多少のブレは許容されます。シード期なら2:1程度でも、改善の兆しが見えていれば問題ありません。
計算式:CAC ÷ (月次ARPA × Gross Margin)
目安値:12-18か月以内
これは投資家からよく質問される項目です。「顧客を獲得するのに投じたお金が、何ヶ月で回収できるか」という指標で、短ければ短いほどキャッシュフローが安定し、次の成長投資に回せます。
マーケティング効率化
セールス効率化
チャーン率改善
アップセル・クロスセル強化
重要なのは、これらの施策を同時並行で進めることです。CAC削減とLTV向上の相乗効果により、Unit Economicsは大幅に改善します。
データの見せ方 投資家は一発の数字よりも「改善している流れ」を重視します。過去12-18か月の月次推移グラフは必須です。コホート分析まで用意できると、さらに説得力が増します。
改善施策を実施した時期と、その効果が数字に現れた時期を時系列で示すのも効果的です。「きちんと考えて改善している」という印象を与えられます。
投資家との面談で必ず聞かれる質問があります。事前に回答を準備しておくことが重要です。
「CAC回収期間が長い理由は?」 → 具体的な改善施策と、いつまでに目標数値にするかを明確に答える
「競合他社と比較してどうか?」
→ 業界ベンチマークとの比較データを用意しておく
「将来の改善計画は?」 → 曖昧な回答はNG。具体的な施策と数値目標を含むロードマップを見せる
調達プロセスで分かったことですが、投資家が最も嫌がるのは「数字の一貫性がない」ことです。今月だけ異常に良い数字があっても、すぐに「なぜこの月だけ?」と突っ込まれます。
また、業界標準から大きく外れている場合の説明も重要です。「うちの事業は特殊だから」という言い訳は通用しません。きちんと合理的な理由を説明できるかどうかが勝負になります。
期間設定のミスがよく見られます。マーケティング施策の効果が出るまでのタイムラグを考慮しないケースです。また、人件費の一部だけを計上して、実際より良く見せてしまうパターンもあります。
一時的な要因(大型キャンペーンの効果など)を除外せずに計算してしまい、翌月に数字が悪化して困惑するケースも散見されます。
Unit Economicsを良く見せたいがために、短期的な数字操作をしてしまうケースがあります。しかし、これは投資家には簡単に見抜かれてしまいます。
顧客品質を犠牲にしたCAC削減も危険です。安い顧客ばかり獲得しても、結局チャーン率が上がってLTVが下がってしまいます。
Unit Economicsは長期戦です。一時的な改善よりも、継続的で持続可能な改善を心がけることが重要です。
Unit Economicsの改善は地味で時間のかかる作業ですが、この数字がしっかりしていると投資家との会話が格段にスムーズになります。まずは現状把握から始めて、継続的に改善していけば必ず結果は付いてきます。調達成功に向けて、着実に取り組んでいきましょう。
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