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とあるSaaSの資本政策:Sansanとオロの比較に学ぶ資金調達の考え方

Finance12.13.20212 min read

資金調達は「目的ではなく手段」

SaaSに限らず、スタートアップといえばVCなどから資金調達して、いち早く事業をスケールさせるものだと考えがちである。

確かに大規模な資金調達のニュースは目を引くものだが、本当に資金調達が必要かどうかは慎重に考える必要がある。なぜなら、資本政策は一度失敗すると、後戻りできないためだ。

今回はSaaSを展開する上場企業、Sansanとオロのビジネスモデル・資本政策を紐解くことで、経営者が考えるべき資金調達のポイントを明らかにする。

資本政策は経営哲学ありき、事業戦略ありき

Sansan・オロの比較に入る前に要点をまとめると、資本政策を考えるポイントは「どのように会社を経営し、どのように事業を成長させていきたいのか」だ。経営理念と事業計画、と言い換えてもよいだろう。

その事業・プロダクトで何が何でもExitを実現する覚悟はあるのか。自らが強力なオーナーシップを持ってパーパスやミッションの実現にコミットしたいのか。事業が見据えるマーケット規模がどの程度あり、何年でどれくらいのシェアを取りに行きたいのか。そのシェアを取れれば、どの程度の収益が見込まれるのか。

こうした論点を言葉と数値(事業計画)に落とし込みながら整理した上で、描いた成長曲線を実現させるための資本政策を考える必要がある。今回は参考として、Sansanとオロの2社を対比しながら資本政策に対する理解を深めていこう。

上場前から大規模な資金調達を繰り返したSansan

上場前に国内・海外含め合計7回の資金調達を行ったSansanは2019年、売上規模の継続的な急拡大を武器に東証マザーズへの赤字上場を実現した。

創業から4~5年で事業が順調に立ち上がってきた同社は、事業の成長スピードを加速させるためにシリーズAで調達した5億円を「テレビCM」に投下している。大規模な広告展開の目的は、法人向け名刺管理サービス市場における圧倒的な知名度の獲得だ。

同社の手掛ける名刺管理サービスは、事業ドメインも導入効果も分かりやすい。加えてSansanはHorizontal SaaSであり、ほぼすべての企業がターゲットとなることから、サービスとマス広告の親和性が高い。

つまり、テレビCMで一気にブランド・製品の認知を獲得することが、契約社数増加を大きく後押しするだけでなく、サブスク型のビジネスモデルゆえに「顧客獲得ができればLTVを鑑みてもマス広告の費用対効果が高い」という算段だ。

その後も大規模な資金調達を繰り返しながら、海外進出や製品開発・マーケティングなど事業拡大に向けてリソースを投下し、スピード感を持って市場シェアを獲りに行く動きを見せている。

自己資本で上場にたどり着いた、高収益体質のオロ

クラウドERP「ZAC」を展開するオロは2017年に東証マザーズへ上場した。同社は「安定的急成長」というキーワードを掲げており、創業以来の連続増収と高収益体質を武器にしている。資本政策における特徴は、VCからの資金調達を行っていないことだ。

Sansanとの比較でいうと、オロのZACは業種特化型であるため、Sansanのようにターゲットとする企業数は多くない(国内約4万4千社)。また統合型の基幹業務システムであることから、受注から納品までのリードタイムも単一機能の業務システムよりは長くなるし、導入支援も高難易度になりやすい。

こうした理由から、テレビCMのように幅広い層に向けた広告展開の必要性は弱くなる。ターゲットが特定の業種に限られるため、マス広告だとターゲットに対するリーチ率が悪くなってしまうこと、加えて導入支援の提供キャパシティを超える受注が生まれると、オロ側のリソースが空くまでクライアントを待たせることになってしまうことが理由だ。

つまりオロは、事業の成り立ちや経営哲学・商材の特性(ターゲットセグメントの狭さ)から、VCから大規模な資金調達する必要性が薄かったと考えられる。

一方、創業期の運転資本をオロはどのように賄っていたのだろうか。その答えは、オロの資本政策の更なる特徴、「無借金経営」にある。

無借金経営が成り立っている理由の1つは、オロは創業から7年程度、クラウドERP「ZAC」の販売開始までは受託開発を行っていた点だ。さらにZAC自体も、受託開発した基幹業務システムを納入先の許可を取ってパッケージ化しているため、研究開発の初期投資は発生していない。

上記の経緯に加え、代表の川田氏が盛和塾に属していたことも無借金経営が実現しているポイントであろう(盛和塾の塾長・稲盛和夫氏が無借金経営を経営哲学としているため)。ZACの研究開発投資においても、売上高に対する一定の比率で上限を決めており、着実に利益を積み上げていくことを重視している。自己資本でのマザーズ上場の裏側には、堅実に成長を積み重ねる経営方針があった。

Sansanとオロ、資本政策の違いはビジネスモデルにも表れている

もう1点、両社の比較におけるポイントがある。両社ともストックビジネスであるのは間違いないが、オロのZACは売上に対するストック比率が低い。その理由はZACのライセンス利用形態にある。

オロは「SaaS型」という月額課金方式でのライセンス提供を行うだけでなく、「買取型」として顧客にライセンスの使用権を販売する、売切型の提供方式も用意している。一般にシステムの減価償却期間は5年とされているため、少なくとも5年は継続利用する前提に立った際に、買取型のほうが費用対効果が高いと考える顧客が多いのだろう。

つまり、ZACはSansanに比べて「まとまった売上が早期に立ちやすい」という性質があり、そのこともオロの無借金経営を支えているはずだ。
※補足:Sansanは、契約時に12か月分のライセンス費用や導入支援費用を前受けすることで潤沢なキャッシュフローを生み出している。

一方のSansanはいわゆるサブスク型のビジネスモデルとなっており、早期にカスタマーサクセスへ投資をしてきたこともあり、解約率が非常に低い(2022年度1Q時点の直近12か月平均解約率は0.62%)。

高い売上成長率に低い解約率、これらがSansanのLTVを押し上げており、その結果として資金調達や大規模な広告投資の意思決定が容易になっている側面があるだろう。

さいごに

まとめると、資本政策を考える際には、まず起業家自身がどのようにして経営したいのかが問われる。

VCからの資金提供を受けながらスピード感を持って市場シェアを獲りにいきたいのか、自身がオーナーシップを持ち、財務基盤を強固にしながら着実に成長を続けていくのか。

このあたりはVCや先輩経営者のアドバイスを受けつつ、思い描く事業の競争環境も踏まえて考えを深めていくべきだ。

そして、自身の経営哲学を事業計画やB/S・P/L・C/Fに落とし込むことではじめて、自社にとってあるべき資本政策が見えてくるだろう。

「事業の構造上、どこにリソースを充てると思い描く成長戦略に直結するのか?」といった問いを立て、事業計画におけるシミュレーションを繰り返しながら最適と思われる資本政策の仮説をつくる必要がある。

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参考記事:
創業前からの二人三脚、起業家Sansan寺田氏とVC赤浦氏の12年間のハードシングス|スタートアップのための資金調達情報等ならインキュベイトファンドのZero to Impact magazine
【特別対談 エクス抱社長×オロ藤崎常務】成長の裏に"方針転換"あり パッケージベンダー2社が語る「急成長のきっかけ」 |ZAC BLOG|企業の生産性向上を応援するブログ|株式会社オロ


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