本日、3つのSaaS事業を手がけるプラスアルファ・コンサルティングがマザーズへ上場した。初値は公開価格を18.3％上回り、時価総額1,089億円で堂々デビューを果たした。今回は、成長可能性に関する資料から同社の事業内容や今後の成長戦略を紐解いていく。

高い技術であらゆるビッグデータを「見える化」

スマホやSNSの普及により、世の中にはありとあらゆる情報が溢れかえるようになった。

そんな中、同社は、顧客の声や購買履歴、人事情報などのビッグデータを、自然言語処理やテキストマイニングなどの技術を用いて「見える化」する事業を行っており、3つのSaaSプロダクトを展開している。

祖業とも言えるのが、マーケティング領域におけるSaaS「見える化エンジン」。これはアンケートやSNSにおける顧客の声などを、テキストマイニングを用いて分析することで、サービス改善や新商品の開発に活用することができる。主にカスタマーセンターやマーケティング部門がターゲットユーザーだ。

国内にも同様のツールがいくつか存在するが、幅広いデータソースに対応しているほか、自然言語処理技術の高さなどが評価され、テキストマイニングツールでシェアNo.1だという。

21年3月末時点でのMRRは1.3億円、契約件数は458社、ARPUは28.3万円。ストック売上高比率は93.8％と高く、解約率（Gross Revenue Churn）は1.2％と低水準だ。

CRM領域で展開しているのが「カスタマーリングス」。顧客属性や行動履歴などのデータを統合・分析することで、顧客と最適なコミュニケーションを実施可能にするツールだ。アパレルや健康食品をはじめとするEC事業者や小売業などが導入しており、オンラインマーケティングの企画・運用をサポートしている。

直感的なUIを提供しているほか、顧客一人ひとりの行動を分析・可視化できる多様な機能、そして、メール・SMS・チャットなどのマルチチャネルに対応している点が特徴的である。

カスタマーリングスのMRRは1.1億円、契約件数は297社、ARPUは35.3万円、ストック売上高比率は95.7％。解約率は0.9％とこちらも低い水準となっている。

そして、最後に紹介するのがHR領域におけるSaaS「タレントパレット」だ。社員のスキルや適性、評価などの人事情報を一元管理し、見える化することで社員教育などに活用することができる。

社員の最適配属や離職者の予測分析、採用効率を高める機能などが特徴で、社員のパフォーマンスやエンゲージメント向上に課題を抱えている人事部門などで導入が進んでいる。

MRRは2億円、契約社数は568社、ARPUは34.6万円となっている。ストック売上高比率は72.6％と他のSaaSと比較すると低い水準にあることから、現在はオンボーディングに注力していることが窺える。解約率は0.5％と全プロダクトで最も低い水準にある。

培った技術をHR領域へ展開、タレントパレットが急成長

同社の前期売上高は47.2億円（前年比+37.4％）、営業利益は14.5億円（営業利益率：30.3％）と利益を出しながらも高い成長を続けている。2015年9月期から前期までのCAGRは33.2％だ。

中でも、同社の成長を牽引しているのは、タレントパレットだ。前期売上高は18.8億円で前年比2.4倍となっている。

タレントパレットは2016年9月期から始まった最も後発な事業だが、すでに売上全体の約4割を占める存在となっている。また、これだけ成長しているにも関わらず、すでに利益を出しているから驚きだ。

FY19.1Q〜FY21.2Qにおける契約件数推移を見ていくと、見える化エンジンは -12.1％、カスタマーリングスは+12.9%なのに対し、タレントパレットは+361.8％と大幅に顧客が増加していることがわかる。

同じくARPUの推移を見ていくと、見える化エンジンは+21.5％、カスタマーリングスは+14.6%、タレントパレットは+38.4とこちらも力強い成長を続けている。

ストック売上高比率は64.8％だったものが、72.6％まで高まってきており、上昇の余地はまだあると言える。

タレントパレットが急成長している背景には、同社がこれまでマーケティング領域において培った分析技術をHR領域へ展開したことにある。顧客の声を分析し活用するノウハウをHR領域へ適用することで、勘や経験に頼った人事戦略から脱却することを支援している。つまり、「顧客の見える化」を「社員の見える化」にした訳だ。

また、同社のプロダクト開発サイクルにも成長の秘訣がある。SaaS企業では当たり前となりつつあるが、開発チームが作ったプロダクトをセールスチームが営業、CSチームで得たフィードバックを開発チームへ共有することでプロダクトを改善するという「PAC（Plus Alpha Consulting）サイクル」と名付けられたサイクルを高速で回している。

このサイクルを高速に回し、プロダクトを進化させ続けることによって、ARPU向上や解約抑止につながり、競合優位性も高まる。タレントパレットでは、2016年9月のリリースからバージョンアップは40回、実装機能は2,300件以上（1日1機能以上のペース）と頻繁にバージョンアップを行っている。

マーケティング・HR領域におけるSaaSのポテンシャル

最後に、各領域における市場規模と同社の成長戦略について触れていく。テキストマイニング領域では未だパッケージが過半を占めるものの、徐々にSaaSへシフトしていくと予想されている。2024年には市場規模が64億円になると推定。他の領域と比較すると緩やかな成長となるが、同社のシェアはすでに40.6％（2019年実績）とダントツ首位となっており、今後はこのシェアを維持できるかが重要だ。

今後は、顧客体験を可視化できるプラットフォーム機能を拡充することに加え、カスタマーサクセスを強化するとしている。具体的には、コンサルティングチームを強化することで顧客内でのサービス利用を浸透させ、アップセルを通じてARPUの向上を狙っている。

分析対象のデータを拡充させることも、ARPUを向上させる施策の1つとして実施する予定だ。今期末の顧客数は前期末を下回るという予想を出しているが、マーケティング施策を改善することで新規顧客の獲得を目指す。

マーケティングプラットフォーム領域においてはほとんどがSaaSとなっており、2024年には205億円の市場規模になると推定している。現在のシェアは12％となっており、まだ拡大の余地はありそうだ。

現在は主な顧客がEC事業者だが、今後は他業種の企業にも使ってもらえるようマーケットを開拓していく。機能面では、マーケティング施策による顧客への影響を見える化する「顧客実感機能」を拡充することで、解約を抑止する予定だ。また、LINEやSMSなど、外部システムとの連携を充実させることで、プロダクトの付加価値を高めると同時にARPUも上げていく方針だ。

人材管理ソフトにおける市場規模は最も成長率が高く、2024年には410億円になると予想されている。現在のシェアは7.2％と高くないことから、こちらもポテンシャルの高い領域と言えるだろう。

マーケティング思考から生まれた機能をタレントパレットに実装したり、コンサルタントによる活用支援を行うことで差別化を図り、シェアの向上を目指す。HR領域の中でも人事部門だけでなく、経営層や事業部門でも活用される機能を実装していく予定だ。

加えて、今後は「科学的人事戦略」をキーワードに、人事情報を戦略活用する意思決定プラットフォームとしていく方針だ。科学的人事を啓蒙することで解約を抑止すると同時に、HR周辺領域のサービスへ進出することで、顧客数及びARPUを上昇させていく狙いだ。人事評価やスキル、適性などの人材情報を活用すれば、人材紹介や研修、福利厚生などのサービス展開が可能となるだろう。

FY21.2Q時点での顧客数は568社であり、今期の顧客数は616社（前期比+43.3％）を見込んでいる。また、潜在顧客数は59,537社（現在の約100倍）と大きなポテンシャルを秘めている。

ご存知の通り、HR領域はSmartHRやHRBrain、カオナビなど名だたるプレイヤーが多い。社員の見える化や人事考課などの人事DBはすでにレッドオーシャンであるため、同社はあくまで人事異動シミュレーションや健康経営指標、各種サーベイなどのタレントマネジメント領域をターゲットとしている。経営層・事業部門向けのタレントマネジメントシステムというユニークな存在となれるかどうか、今後も注目したい企業だ。

Written by kakeru miyoshi（@saas_penguin）

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