今回は、Baremetrics(BIツール)を運営するXenon Japanの林氏、projection-ai(事業計画SaaS)を運営するOne Capitalの浅田にインタビューいたしました。
両社ともにSaaSスタートアップへの投資を行っており、成長の鍵は「予実管理」にあると言います。具体的にどのように予実管理を行うべきか、話を伺いました。
<プロフィール>
林 尚郁(Sangwook Lim)
Xenon Japan Partner 兼 Baremetrics Country Manager
Xenon Partners傘下のUXPinのCOOを兼任しながらUXPinとBaremetricsなどの投資会社の日本と韓国進出を陣頭指揮。韓国出身。2003年から2020年まで富士通株式会社に所属し、在籍中には海外部門や経営戦略室などにてグローバルビジネスの拡大に力を注いだ。2020年にXenon Partnersに参画し、日本企業と海外企業をつなぐ橋渡し役として、スタートアップへの投資、運営、コミュニティ構築を行なっている。INSEADでのMBA取得。
浅田 慎二
One Capital株式会社 代表取締役CEO,General Partner
伊藤忠商事株式会社および伊藤忠テクノソリューションズ株式会社を経て、2012年より伊藤忠テクノロジーベンチャーズ株式会社(ITV)にて、メルカリ(IPO)、ユーザベース(IPO)、Box(IPO)、Muse&Co(Mixiが買収)、WHILL等国内外ITベンチャーへの投資および投資先企業へのハンズオン支援に従事。 2015年3月よりセールスフォース・ベンチャーズ 日本代表に就任しSansan(IPO)、freee(IPO)、Visional(IPO)、Goodpatch(IPO)、Yappli(IPO)、スタディスト、Andpad等B2Bクラウドベンチャーへ投資。2020年4月にOne Capital株式会社を創業、代表取締役CEOに就任。慶應義塾大学経済学部卒業、マサチューセッツ工科大学にてMBA取得
ーまず、簡単にBaremetricsの紹介をお願いいたします。
林氏:Baremetricsは、SaaS・サブスクビジネスのための分析ツールです。サブスク課金を行っている企業が、Stripeをはじめとした決済ツールと連携するだけで、収益動向や様々なビジネス指標を確認できるBIツールとなります。
大きな特徴は3つあります。1つ目は、26を超えるビジネス指標をリアルタイムで確認できることです。当日の新規受注やエクスパンションなどをリアルタイムに把握することができます。
2つ目は、そのようなデータを期間やタイプ別にセグメント化し、比較・分析することができます。特にプラン毎に指標を確認することで、プライシングに活用することもできます。
3つ目は、SaaSビジネス戦略の「OODA」支援です。OODAとは、Observe (観察)、Orient (状況判断、方向付け)、Decide (意思決定)、Act (行動)の略で、SaaSビジネスの戦略決定を支援するツールとなります。
SaaSビジネスを運営する上で必要な情報を提供し、ビジネスを支えるツールとなります。フリートライアルを実施することができますので、ご関心のある方は、Websiteよりお試しください。
ー続いて、projection-aiの紹介をお願いします。
浅田:projection-aiは、SaaSスタートアップのための事業計画作成ツールです。”未達の事業計画を撲滅する”をビジョンに掲げ、シード期のスタートアップを中心にご利用いただいています。
従来、事業計画はエクセルやスプレッドシートで作成することが一般的です。柔軟性が高いが故に「積み上げ式」の事業計画となってしまい、目標未達になってしまう事業計画が溢れかえっています。
projection-aiはそのような課題を解決するために「逆算型」にこだわり、開発を行っています。目標ARRから逆算して、必要な顧客数や受注数、商談数やリード数が自動算出されるようになっています。
また、国内外のSaaS企業に関するコスト構造や人員目安などを蓄積した「ナレッジページ」も用意しており、業界水準を参考にしながら、シンプルで蓋然性の高い事業計画を素早く作成することができます。
フリートライアル(7日間)を希望される方は、Websiteよりお申し込みください。
ーでは、セッションに移りたいと思います。事業計画はそもそも何のために作成するのでしょうか?
林氏:事業計画は会社を経営する上で、自分の夢や目指したいゴールへどのようにたどり着いて行くのかを示してくれる羅針盤(コンパス)だと思います。
良いプロダクトを作りたいのがゴールであっても、それを評価するのはお客様であり、それは業績となって表れます。そのため、事業計画なくして夢やゴールを語るのは無意味となります。
一方、現実的な話をすると、SaaSをはじめとしたスタートアップは、キャッシュフローが重要となります。事業計画は企業の体力を判断する材料となるため、バーンレートを確認しつつ、成長を加速させる指針になるかと思います。
浅田:事業計画を作成する目的は、資金調達をすること、事業を前進させることの2点だと思います。
まず、資金調達についてですが、事業計画は起業家と投資家が会話する共通言語となります。事業計画がないとそもそも会話することができません。
たとえシード期のようにトラクションがあまりないスタートアップでも、MAUなどのメトリクスを事業計画へ盛り込み、投資家と会話することができるかと思います。
事業の前進についてですが、結局、計画を立てない以上、どのくらい前に進んでいるのか分からないですよね。
これまでの実績は計画と比較して良いペースなのか、もしくは、悪いペースなのか。それを社内で共有できないと、未達になってしまうリスクが高まります。
ーでは、どのような事業計画が重要だと思いますか?
林氏:まず、目標達成が現実的でない、荒唐無稽な計画は禁物です。ベース、ベスト、ワーストケースを作成しつつ、様々なシナリオを考慮して、プランニングすることが重要かと思います。
様々なシナリオを想定することで、上手くいった時やそうでない時にもしっかり対応できるため、より臨機応変に身動きが取れるはずです。
浅田:3点あると思っていますが、まずはシンプルさですね。どのようにマネタイズするビジネスかが端的に分かることが重要です。
2つ目は適度なドリルダウン。SaaSであればARPUと顧客数、マーケットプレイスであればGMVとテイクレートなど、因数分解した場合のメトリクスが簡潔に表現されているものが理想です。
最後は林さんもおっしゃったようなシナリオです。必達となるベースプランとストレッチしたプランの2種類あれば良いかなと思います。projection-aiでは、そのようなシナリオをワンクリックで簡単に作成することができます。
(projection-aiのデモ画面)
ーSaaSで重要なメトリクスは何でしょうか?
林氏:Baremetricsでは26以上の指標を確認できるものの、継続的に見るのは結局のところ、MRR、Churn Rate、ARPUかなと思います。
もちろん、ビジネスによって異なるかもしれませんが、これらをベースに2、3個の指標を常に追跡することが重要です。そして、全ての指標は基本的にこれらに紐づいているため、他の指標はこれら3つの指標に異変が出始めた時、より詳細にチェックしてみることをお勧めします。
また、これら3つの指標のトレンドラインに基づいて、施策が上手くいったのかいってないのか確認し、その理由を他の指標から分析することでビジネス戦略を立てていくことが重要かと思います。
浅田:1つに絞るとすれば、ARRだと思っています。ARRは資金調達をする上で、最も重要な指標となります。
今だと、ARRが1億円あればシリーズAの対象になります。そのARRが翌年3倍になるということであれば、30億円のバリュエーションで資金調達できることになります(10倍のマルチプル)。
最近は急成長しているSaaS企業も多く、翌年のARRが5倍になるケースもあったりします。このように、バリュエーションを算出する上でも、わかりやすい指標としてARRが重要です。
企業ステージ毎のARRでいうと、シリーズAで1億円、Bで3億円、Cで6億円、Dで10億円くらいが目安かと思います。
もちろん、その構成要素として、Churn RateやARPUなどがあり、こちらの指標もトラッキングすることは重要です。
ー実績を管理する上で重要なポイントは何でしょうか?
浅田:実績管理という言葉を噛み砕くと、その実績を何と比較するのかという話になります。そして、それは予算と比較するということに帰結します。
10の予算に対して13の実績を出せたら、さらに成長できそうか、そもそも計画がコンサバ過ぎたのか、より先の話をしたくなりますね。
そのため、予算比較がしやすい環境が大切です。また、目標が未達の場合、因数分解をする必要があります。原因を探っていくと、受注数や商談数が足りなかった、値引きしすぎたなど、未達の要因を把握することができます。そして、予算に対する差分が発生した場合、経営アクションにどのように反映できるかが最も大切ですね。
林氏:先程説明したOODAの話に戻りますが、なぜ、そのような意思決定や行動をしたのか観察することが大切です。
特に、SaaSビジネスは成功事例を元に自動化や標準化を行っていくことが一番なので、上手くいった理由やいかなかった理由を積み重ね、ベストプラクティスを見つけいくことに尽きるかなと思います。
実績管理においても、良かった施策を続けて、悪かったところを省いていくというシステムを作っていくことが重要となります。
Baremetricsに出ているトレンド(MRRなど)を見れば、何を実施したら実績が向上し、何を実施したら実績が下がったのか把握することができます。
(Baremetricsのデモ画面)
ーでは、未達になりそうだった場合、どうすべきでしょうか。
林氏:未達になりそうな場合、まずは素直にそれを認めて、次のステップに向かうことが大事です。
逆にやってはいけないことは、未達になりそうな時にイレギュラーな対応をしてしまうことですね。例えば、3割くらい値引きして販売してしまうなどが挙げられます。
理由としては、業績にためにイレギュラーなことをやると逆に収拾がつかなくなり、コストアップに繋がってしまうからです。そのため、未達になりそうでも中長期的な視点を持って、次に何をやるべきかを把握し、実行することが重要だと思います。
浅田:未達になりそうな場合、なぜ未達になるのか事前に把握しておくことが最重要です。KPIをドリルダウンしていくと、リード数が足りなかった→オーガニックセッション数が足りなかった→ブログ発信数が足りなかったなど、未達の要因を特定することができます。
また、MTGを実施するに当たって、レビューや報告に時間をかけている企業が多いと感じています。前職のSalesforceでは、予め全メンバーが未達の理由を把握しているため、今後のアクションにフォーカスして議論することが当たり前になっていました。
そのように前向きなディスカッションができるカルチャーを作ることも重要だと思います。
ー日本・海外SaaS企業において、メトリクスの違いはありますでしょうか?
林氏:Baremetricsの顧客情報はもちろん見ていませんが、正直そこまで変わらない感触を持っています。ただ、日本のSaaS企業は今後高い成長が見込まれるため、成長率は高いと思います。
最初のトラクション(MRR)を作るまでの期間は海外よりも長いと感じています。
最後に1つ挙げるとすれば、日本の場合、価格形態がシンプルすぎて、改善の余地があると思っています。海外企業では、3つくらいプランを用意して、月額と年額プランを用意する。そして、できるだけ高いプランに誘導するようにLPを工夫している企業も多いです。
スタートアップはキャッシュが大切なため、年額に誘導する企業が多い印象ですね。
ー新興市場において、精度の高い事業計画を立てるためのベストプラクティスはありますか?
浅田:精度が高いということを噛み砕くと、顧客の解像度がクリアだということだと思います。顧客の企業名、部署名、氏名、性格など、そのようなターゲットを深く理解することで精度の高い事業計画になるかと思います。
ー財務的なKPIは全社で共有するものでしょうか?
林氏:MRRやARPU、Churnなど、基本的な指標に関しては、全従業員に共有した方が良いと思っています。
MRRなどの指標を理解することは、SaaSビジネスを理解してもらうことに繋がります。ユーザー数の増加に貢献する人、Churn Rateの改善に貢献する人など、自分の役割を理解する上でも重要となります。
あと、これはSaaSに限らずですが、同じ船に乗っている以上、経営に関する情報格差はできる限り解消した方が良いかと思います。
ー年額払いのデメリットはありますでしょうか。
浅田:ユーザー視点で考えると、仮に途中で使わなくなってしまった場合、払い続けるというデメリットがあります。
ベンダーとしても、使ってもらっていないのに支払い続けてもらうのはなかなかしんどい気持ちになりますよね・・・。
ー採用は事業計画から逆算して考えれば良いのでしょうか。
浅田:採用計画は業績にとても大きな影響を与えます。特にSLG型のプロダクトを提供している会社は、そのインパクトは甚大なものになります。
目標ARRを達成するために、どの職種のメンバーがどのくらいいれば良いのか、事業計画から逆算して採用計画に落とし込むことは非常に重要です。採用計画のための事業計画だと言っても過言ではありません。
ー本日はありがとうございました!
林氏・浅田:ありがとうございました。
Text by Kakeru Miyoshi(@saas_penguin)
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Baremetricsは、SaaS・サブスクビジネス分析ツールです。サブスク課金を行っている企業が決済ツールと連携するだけで、収益動向や様々なビジネス指標を確認できるBIツールとなります。フリートライアルを希望される方は、こちらよりお申込ください。
SaaSスタートアップのための事業計画作成ツール「projection-ai」は、目標ARRを設定すると、必要なKPIをミスなく、スピーディーに算出できるツールです。主にシード期のSaaSスタートアップや大企業の新規事業部門に利用されています。7日間のフリートライアルを希望される方は、こちらから申込していただけますと幸いです。
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