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バーティカルSaaSの事業責任者が語る資金調達(7億円)の裏側

Finance12.6.20214 min read

不動産仲介企業向けのバーティカルSaaSを提供するHousmart社が、シリーズDにて7億円を調達されました。今回は、その事業責任者である真鍋さんに資金調達の裏話、そして、事業計画の運用方法について伺いました。

<登壇者プロフィール>
真鍋 達哉

PropoCloud事業責任者
新卒でデジタルマーケティング最大手のオプトに入社。国内最大規模のクレジットカード企業にてデジタルマーケティングのコンサルティングを行い、電子マネーの認知拡大や新規カード発行数を4倍に成長させる。その後、複数の大手アパレル企業に対し、Googleプロダクトを基軸としたテレビCMとデジタル予算の最適化統合分析スキーム構築や、デイリー数千万円規模の売上を達成する為、レコメンド媒体の最適化を各媒体のトップアカウントコンサルと連携し推進。単にアカウントプランナーとしてではなく、マーケティング全体のプランナーとしてデジタルマーケティング全般を企画立案から実行まで行う経験を積み、2016年に全社準MVPを受賞。自身の住宅購入を機に不動産業界に強烈な興味を持ち、Housmartに入社。

三好:真鍋さん、本日はよろしくお願いいたします。簡単に自己紹介をお願いいたします。

真鍋氏:はい、Housmartの真鍋と申します。不動産仲介業者向けSaaS「PropoCloud」の事業責任者をしております。

新卒でオプト(現デジタルホールディングス)に入社し、マーケティング領域を専門としていました。27歳で自宅を購入したのですが、不動産業界には多くの課題があることに気付き、興味を持って不動産テックの業界に飛び込みました。

バーティカルSaaSネタについてはTwitterでも呟いているので、ぜひ覗いてみてください。

弊社は、B向けバーティカルSaaS「PropoCloud」とC向けアプリ「カウル」を提供しています。2つの事業を抱えることで、企業と消費者の両側面から不動産業界のIT化を推進しています。

弊社のコアコンピタンスは、不動産業界の売買領域に特化したデータベースを作ろうとしている唯一無二の企業であるということです。不動産売買における価格データから機械学習を用いてデータベースを構築しています。

これまで、不動産業界では国交省が管理しているデータベースしかありませんでした。そのため、民間企業として不動産売買のリアルタイムなデータベース構築に臨んでいるのは、国内見渡しても弊社以外ほぼいないと思います。

PropoCloudは不動産仲介企業向けSaaSとなります。不動産売買領域における非効率を解消することで、営業活動の促進を支援します。不動産業界に特化したMAツールのようなものだと思っていただければと思います。
(同社のビジネスモデル)

三好:ありがとうございます。今回の資金調達の概要を教えていただけますか?

真鍋氏:はい。今回のラウンドについて話す前にこれまでの背景について共有させていただきます。

前回ラウンド(シリーズC)は、PropoCloudのテストマーケティングを始めたくらいのタイミングだったので、今回は正式リリースして初めての資金調達となりました。

会社としてはシリーズDとなりますが、PropoCloudとしては2回目の資金調達、つまり、シリーズAに該当するかと思います。

今回は、JIC ベンチャー・グロース・インベストメンツ(以下、JIC)から6億円、サファイア・キャピタル(以下、サファイア)から1億円の計7億円を調達しました。

調達の目的は、SaaS事業を成長させるべく、よりアクセルを踏んでいくためです。

バーティカルSaaSはホリゾンタルと異なり、広告宣伝費にコストを投じるビジネスではないと思っています。顧客獲得したらARPAを向上させると共に、Churnを下げることが重要です。

そのため、CSへの投資が最も重要だと思っているので、人材採用に投資していきたいと思っています。CSに加え、冒頭で話をしましたデータベース構築にあたり、エンジニア採用にも注力したいと思います。

三好:ありがとうございます。PropoCloudを立ち上げてから社内の雰囲気などは変わりましたか?

真鍋氏:とても変わりました。カウルからPropoCloudに異動してもらったメンバーもいますし、私もその内の一人です。異動もそうですが、会社の方向性やミッションなどもかなり変わりましたね。

三好:なるほど。資金調達に関してどのような反響がありましたか?

真鍋氏:これまでも定期的にプレスリリースなどを打っていましたが、PV数はこれまでの5〜6倍くらいになりました。

話題性の高い他社の調達ニュースとタイミングが重なってしまった部分があったのですが、その中でも注目を集めることができました。

また、現在、複数企業と資本業務提携を進めています。今回の資金調達により実績ができたことで、提携がより前に進むと思っています。

三好:今回、JICとサファイアの2社から調達した理由を教えていただけますか?

真鍋氏:JICは政府系ファンドということもあり、日本の国力を上げるためにスタートアップへ投資されています。

他のVCはSaaS企業として見ていただくことが多かったのですが、JICはデータベース企業として理解していただけたことが一番の理由ですね。

複数回のプレゼンを通じて他のVCにも理解していただくことはありましたが、JICは最初のプレゼンから理解をしていただけたこともあり、伴走していただけるパートナーだと確信することができました。

サファイアキャピタルは既存株主様と強いリレーションがあり、ご一緒させていただけることになりました

三好:B向けとC向けの事業をお持ちですが、どのようにバリュエーション交渉されましたか?

真鍋氏:足元ではSaaS事業の実績が急激に伸びており、かつカウルもやっているため、ブレンドしたバリュエーションで調達をしましたが、昨今はSaaSに対するマルチプルが非常に高くなっているため、全体として納得のいくバリュエーションで調達することができました。

三好:今回の資金調達に当たって、何社くらいの投資家と話をされましたか?

真鍋氏:リードとフォローを合わせて30社くらいと話をしました。割合としては、リードが6〜7割くらいです。

三好:どのような形で投資家とアプローチをされましたか?

真鍋氏:これまで多くのVCとやりとりをしていた経緯があったので、そこから改めて連絡させていただきました。また、既存投資家にも新規の投資家を紹介していただきました。

三好:ピッチをする中で投資家に刺さったポイント、その理由について教えていただけますか。

真鍋氏:不動産領域における業務効率化を支援するデータカンパニーとしてのポジショニングを最も評価いただきました。これは特にJICから評価いただいたポイントですね。

他にはSaaS事業の成長速度、足元のトラクションについても評価をしていただきました。サービスインしてからちょうど2年経ったタイミングで調達活動を開始したのですが、バーティカルでここまでトラクションを積めるのかというポジティブなフィードバックをいただくことができました。

また、不動産テック企業で明確な1強はまだ存在しない、という点も評価いただいた理由の1つです。

不動産市場自体はとても大きく、国内で3番目の大きさを誇ります。不動産投資領域ではGAテクノロジー社の存在感が強く、賃貸領域はマーケットが大きいが故に競争が激しくなっています。

売買領域においては、課題が非常に重く、業界慣習があるため、参入企業がほとんど存在していません。そのように競争が起こりにくい点も評価していただきました。

三好:SaaS事業が非常に好調とのことですが、そこまで実績を積めたポイントは何でしょうか?

真鍋氏:最も注力したのはABM(Account Based Marketing)です。不動産業界において、売買仲介をしているのは約2割。その中でも首都圏だけにフォーカスしています。

さらに、その中でも中堅〜大企業がターゲットにしているため、対象は4000店舗くらいとなります。このように明確なターゲティングを行い、DMやテレアポ、飛び込み営業など、できることは全てやることで、ここまでトラクションを積むことができました。

三好:顧客の解像度がかなり高そうですね。逆に投資家から断られた理由、そこから学んだポイントなどがあれば、教えていただけますか?

真鍋氏:断られた理由としては、バリュエーションの目線が合わないという理由が最も多かったです。

また、あるVCにはプロダクトの利用状況と解約の相関をもっと可視化できるはずというフィードバックをいただきました。元々、エンジニアとCSが連携して、既存顧客のヘルススコアを週次で確認しているようにしているのですが、利用状況と解約の相関などについてはまだ科学し切れていない部分もあるため、見送りになってしまいました。バーティカルは一回解約されてしまうとなかなか復活しないため、これはとても学びになりました。

三好:なるほど。バーティカルならではの体験談はありますか?

真鍋氏:バーティカルでよかったと感じたことは、顧客解像度が圧倒的に高いことです。VCに対して、「このような店舗のこのような担当者が、このようなシーンでこのように利用しています」ということをクリアに示すことができました。

業界TOP30をリストアップして、パイプライン管理しているので、マーケットの開拓状況を可視化しやすいのも特徴かと思います。

資金調達の際は、このアカウント開拓状況を一緒に見ながら、議論することができました。

三好:アカウント獲得後のアクションについてはツッコミがありませんでしたか?

真鍋氏:はい、バーティカルが故にTAMが小さいのでは?という話はとても多かったです。それを覆すべく、2つの考えを持っています。

1つ目は、アカウント獲得状況でいうと、まだ全体の2合目なので、ポテンシャルがあるという話です。また、何年後にこの機能を追加してアップセルするなど、ARPUの向上についても言及しています。海外だとToastやProcoreなども高いARPUで受注していますよね。

2つ目は、既存の機能はMAと追客だけですが、集客や契約書作成など、隣接するマーケットへ進出することで、TAMの拡大に繋がると説明しています。

三好:ありがとうございます。ここからは事業計画について教えてください。どのような目的で誰がどのように管理しているのでしょうか?

真鍋氏:はい。まずはツールですが、スプレッドシートで運用しています。事業計画を作る目的は、投資家などの第三者に計画の蓋然性を示すため、そして、社内の目線を合わせるためです。

管理部門の責任者にExcelマスターがおり、事業計画のベースとなるものを作成してもらいました。このタイミングでChurnはこれくらいになる、このくらいアップセルする、みたいなシミュレーションをしながら、私がキードライバーとなるKPIを打ち込んで作成しました。

実は全従業員が閲覧できるようになっていますが、誰もみていません。複雑で理解しづらいスプレッドシートになっているためだと思われます(苦笑)。

複雑かつ属人的な事業計画になっているため、それがネックですね。全社へ浸透させるためには、既存のものをもう少し咀嚼して分かりやすくする必要があると思っています。

三好:属人的になっている企業はとても多い印象です。事業計画に対してVCからフィードバックはありましたか?

真鍋氏:ポジティブなフィードバックとしては、成長率の高さが評価されました。また、VCにはSaaSに詳しい人が多いので、フィードバックだけではなく、SaaSに関する知見をいただくこともできました。

ネガティブなこととしては、事業計画がコンサバすぎませんか?と言われたことがあります。これまでの実績をみていただき、3年後はもっと成長しているでしょ?と。

しかし、これはあえてコンサバに見積もって作成しています。というのも、バーティカルの場合、予実を外した場合、逆転ホームランを打つことができません

そのため、蓋然性の高さを重視した事業計画を作成し、VCへ提出しました。そのため、アグレッシブなキャピタリストの方にはそのようなフィードバックをいただくこともありましたね。

三好:事業計画作成の際、どこからどのように情報を取得していますか?

真鍋氏:マクロとミクロの両面で情報取得をしています。

マクロな視点だと、SpiderPlus社などのバーティカルSaaS企業のIR資料などをみていますね。海外だと、Veeva,Procore,Toastなどが代表例ですね。

意外とバーティカルSaaSに関する情報もネットには流れているので、探してみることをお勧めします。

しかし、マクロ情報だけを当てはめると予実を外してしまいます。それは顧客の解像度がとても低いからなんですね。

そこで、「現場感」というミクロな情報が重要となります。私は元々マーケティング部門にいたのですが、セールスに異動することになりました。1年間で500アポくらいをやることで、現場感を掴むことができました。

このようにマクロ(公開情報)とミクロ(現場情報)を組み合わせることで、蓋然性の高い事業計画を作成することができるかと思います。

三好:蓋然性の高さは非常に重要だと思います。最後に起業家の方へメッセージをお願いします!

真鍋氏:これは私ではなく、CEOの針山からのメッセージです。

前回はPropoCloudがテストマーケ状態だったので、ラウンドをクローズするまで半年以上、その前がカウルだけだったので1年半年ぐらいかかりました。それを考えると、今回5ヶ月でクローズできたことは自信に繋がりました。

投資家からはさまざまな質問をいただくので、答えを言語化することが大切だということを学びました。質問していただいて、初めて課題やチャンスに気付くこともあります。

しかし、全て真に受けているとそれはそれでマイナスもあるため、自分が良いと思ったことは取り入れ、自分の考えに確信がある点に関しては参考に留めることで、全体として前に進むことができると思います。

資金調達はとても大変な業務ですが、起業家、そして、組織の成長につながる機会だと思います!

三好:素敵なメッセージ、そして、本日はありがとうございました!

真鍋氏:こちらこそありがとうございました。

Interview & Text by Kakeru Miyoshi(@saas_penguin
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