「弊社では3つの証明という基準をもとに投資判断しています。」
そう語るのは、UB Ventures 代表取締役の岩澤 脩 氏です。
3つの証明とはどのようなことなのか、事業計画をどのように確認しているのか、その実態を伺ってみました。
<岩澤 脩 氏>
UB Ventures|代表取締役 マネージング・パートナー
慶應義塾大学理工学研究科修了。リーマン・ブラザーズ証券、バークレイズ・キャピタル証券株式調査部にて 企業・産業調査業務に従事。その後、野村総合研究所での、M&Aアドバイザリー、事業再生計画立案・実行支援業務を経て、2011年からユーザベースに参画。執行役員としてSPEEDAの事業開発を担当後、2013年から香港に拠点を移し、アジア事業の立ち上げに従事。アジア事業統括 執行役員を歴任後、日本に帰国。2018年2月にUB Venturesを設立し、代表取締役に就任。
三好:本日はよろしくお願いいたします。早速本題ですが、新規投資を検討する際、事業計画はどのくらい重要視されていますか。
岩澤氏:弊社がフォーカスしているプレシリーズAでは、投資前に事業計画やその蓋然性を確かめることは、あまりしていません。
どちらかというと、DDするプロセスの中で、起業家と一緒に事業計画を作成するスタンスですね。
一方で、計画の「シンプルさ」を重視しているので、そこは確認するようにしています。
MRRや顧客数、MAUなど、適切なものであれば何でも良いのですが、今追いかけるべき指標をシンプルに表現できているかが重要だと思っています。
これは起業家に限らずですが、経営をするうえで3つ以上の指標は同時に追いかけられないと思っています。
最近は米国SaaSに関するナレッジが日本にも浸透し、市場の底上げにつながっているのは良いことですが、パラメーターがたくさんある事業計画を作成している起業家もいます。
管理すべき指標がたくさん存在すると、意思決定が複雑になってしまうため、経営者として何を重視するのか、シンプルにした方が良いと思っています。
三好:なるほど。他に投資判断の基準はありますか。
岩澤氏:弊社は「3つの証明」という投資基準を持っています。「マーケットの証明」「プロダクトの証明」「実行の証明」の3つです。
(UB Ventures 投資判断における「3つの証明」)
最も重視しているのは「実行の証明」です。「MRR Velocity」と呼んでいるのですが、サービスインしてから12ヶ月以内にMRR1,000万円を達成できるかどうかをみています。
ただ、最近はプロダクトが成熟していないにも関わらず、MRR1,000万円を目指そうとしている起業家が増えている気がするので、PMFしているかどうかももちろん重要ですね。
TAMの大きさやユーザーペインの深さなど、「マーケットの証明」はDDの時に見ていますが、PMFを含めた「プロダクトの証明」は投資後に見るケースが多いです。
エンタープライズ向けの場合、ARPAは10万円を超えるどうか、Churn Rate(Customer Churn)は1%を目指せるかどうかというのは重要です。
粗利率も確認するポイントの1つです。日本のSaaS企業は、各社で原価の定義がバラバラで、しっかりと管理できていないケースが多いです。一方、グローバルではSaaSにおける原価の定義が明確です。可能な限り前倒しで原価を管理できるようにしてもらい、粗利率65%という水準をキープできるかどうかを見ています。
三好:「3つの証明」、具体的でとてもわかりやすいですね。ところで、岩澤さんにとって、PMFの定義とはどのような状態を指しますか?
岩澤氏:2つあると思っています。まずは、起業家自身が(投資家から言われるのではなく)自分の意思で、「売れる」というマインドになっているかどうかですね。「これはいける!」と思えないと、ユーザーから共感を得るのは難しいですよね。
2つ目は、α版・β版のユーザーが、そのプロダクトの優位性を語り、他の顧客に勧めてくれるかどうかです。
ユーザベースの「SPEEDA」は、初期段階では投資銀行・コンサルへセールスしていたのですが、顧客がSPEEDAの営業担当者よりもプロダクトに詳しい、という状況を実現できたんです。
一人でも良いので、そのようなエバンジェリストがいると、そのプロダクトはユーザーのペインをしっかりと捉えていると感じることができます。
三好:ありがとうございます。既存投資先の事業計画については、どのくらいの頻度で確認されているのでしょうか。
岩澤氏:計画に対して実績がどうだったのかという視点では、毎月チェックするようにしています。
主にMRRをチェックしており、差分が発生した場合はどのようにリカバリするのか、起業家と一緒に考えていますね。
もし、未達が3ヶ月間続いたら、計画そのものを見直すようにアドバイスしています。3ヶ月間その状態が続くと、メンバーの心が折れ、事業として成り立たなくなるリスクがあるためです。
また、未達が6ヶ月間続くと ”未達のクセ” が付いてしまいます。その前にテコ入れをするという意味でも3ヶ月を目安にしています。
三好:未達になってしまうスタートアップの特徴があれば、教えてもらえますか。
岩澤氏:シンプルに、予実が管理できていないスタートアップですね。
計画に対して実績がどうだったのか、バーチャートなどで可視化できていない企業は未達、できている企業は達成している傾向にあります。
理由は簡単で、データを可視化すると良くも悪くも、ステークホルダーに対して言い訳ができなくなってしまうためです。
また、予実の差分を見える化することで、そのギャップを埋めるための意思決定をスピード感を持って実施することができます。
三好:やはり予実管理はマストですよね。未達の場合は、どのようなアドバイスをすることが多いですか。
岩澤氏:まず、数字をリカバリするために、経営メンバーが営業の現場に入らないようにアドバイスさせてもらうことが多いです。
確かに、経営メンバーが現場に入ることで、CVRが向上することはありますが、それは短期的な成果であり、サステナブルでないので我慢して欲しいと伝えていますね。
三好:なるほど。他に改善支援されていることはありますか。
岩澤氏:セールスピッチを録音してもらって、それを聴くことはありますね。
セールスがプロダクトの価値を正しく伝えられているか、スムーズにクロージングできているかをみて、改善の支援しています。
そこに問題がなければ、ファネルを見ます。MQLからSQLへ転換していなければ、インサイドセールスに問題がないかなど。
もし、そこにも問題がなければ、そもそもプロダクトやマーケットの問題の可能性があるため、ピボットするのかどうか議論することもあります。
三好:達成しているスタートアップに対して、上方修正しようという話をすることはありますか。
岩澤氏:それはほとんどないですね。もちろん、そのようなスタートアップが出て来たら嬉しいですが。笑
上方修正しても、その目標に対して未達になると、メンバーの士気も下がってしまうため、好調だからよりアグレッシブにいきましょう、と一律に言うことはありません。
シードフェーズでは、小さくても良いので、成功体験を積み、成功できるクセをつけられることの方が重要です。
なので、あくまで現実的な計画で走るケースがほとんどです。
三好:投資先に対して、他に支援されていることはありますか。
岩澤氏:既存投資先の一部(シードでリード投資など)に対しては、CEOと週次でコーチングセッションを行っています。
CEO個人としての組織の悩みを聞いたり、今後のビジョンに関して相談することが多いです。
また、これは弊社の強みでもあるのですが、ユーザベースグループで投資先を支援するカルチャーがあります。
SPEEDAやNewsPicksのチームが、自ずと投資先に対して顧客を紹介してくれます。
UB Venturesはシナジー投資ではなく、あくまで純投資であるにも関わらず、ユーザベースグループの仲間が投資先のために顧客紹介してくれるというのは、強みの1つだと自負してます。
三好:純投資にも関わらず、ユーザベースグループのアセットも活用できるのは、まさに理想的な構図ですね。最後に、日本のSaaS起業家に向けてメッセージをお願いします!
岩澤氏:はい。日本のスタートアップマーケットは、海外から事業アイデアを持ってきて日本でも再現する、いわゆるタイムマシン経営は一巡したと思っています。
ここからは、日本の商習慣にフォーカスしたJapanese SaaSが立ち上がり、産業化するかどうかのターニングポイントだと思います。
日本独自のペインにディープダイブできるスタートアップが、たくさん出て来てくれると嬉しいなと思っております。
そのような事業アイデアをお持ちの方は、ぜひ、UB Venturesで支援させていただけると嬉しいです!
三好:本日は大変貴重はお話ありがとうございました!
岩澤氏:こちらこそありがとうございました。
Interview & Text by kakeru miyoshi(@saas_penguin)
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